研究内容
DNA量生物学の創成を目指して
研究課題1:ecDNAの生成・維持機構とインパクトを理解する
ゲノムには生命の設計図がコードされています。私たちは、このゲノム情報を正確に複製し、ゲノムに傷ができた際には傷を正確に修復し、染色体を娘細胞に正しく分配する機構をもっています。このようなゲノム安定性維持機構のおかげで、ゲノムは変化しないように厳密に維持されています。がん細胞ではゲノム安定性維持機構が破綻し、多種多様なゲノム変化が起きますが、遺伝子のコピー数増加(遺伝子増幅とも呼ばれる)はがん細胞の特徴といっても過言ではありません。
遺伝子のコピー数増加というと、染色体上で遺伝子領域が増幅する現象だと考えられがちです。しかし、遺伝子のコピー数増加は、遺伝子領域が染色体外で環状化し、この環状DNAが蓄積することによっても起こります。約4割ものがん細胞が、Double MinutesやecDNAと呼ばれる、がん遺伝子などを含んだ巨大な環状DNAをもっています。そして、 ecDNAは、がんの発症、がんの進行、抗がん剤への耐性の獲得に寄与する重要な核内因子と考えられています。ecDNAは1960年代に発見されていますが、ecDNAがどのような分子メカニズムで生成され維持されるのかは、多くの謎が残されています。そこで私の研究室では、
「ecDNAはどのような分子メカニズムで生成され、維持されるのか?」
「ecDNAは生命機能にどのようなインパクトを与えるのか?」
を明らかにしたいと考えています。
研究課題2:ecDNA以外の環状DNAの生成・維持機構とインパクトを理解する
環状DNAは、がん細胞だけに見られる異常なDNAではありません。例えば、出芽酵母はリボソームRNAをコードする遺伝子(ribosomal DNA [rDNA])を約150コピーもっており、全てのrDNA配列が染色体上に縦列に並んでいます。この領域からは、環状rDNAが産生され、その蓄積は細胞老化を促進すると考えられています。そこで、この環状rDNAが産生・維持されるメカニズムを明らかにする研究を行っています。さらに、ヒトの正常な細胞や他の生物においても、多種多様の環状DNAが観察されています。そこで、異なる環状DNAが生成・維持されるメカニズムや、その機能についても理解し、その普遍性や特異性を明らかにしたいと考えています。
研究課題3:染色体上で起こる遺伝子のコピー数増加の分子メカニズムを理解する
遺伝子のコピー数増幅は、染色体上で起こることもあります。例えば、がん細胞の染色体上で遺伝子増幅が起こった領域はHomogenously staining region (HSR)と呼ばれており、ecDNAがゲノムに再び組み込まれることによって起こると考えられています。しかし、そのメカニズムは十分にわかっていません。また、rDNA領域のような遺伝子反復領域では、遺伝子のコピー数増加が起こることもわかっています。そこで、このような染色体上で起こるゲノム変化のメカニズムについても明らかにしていきます。